前回に続き、今回は旅の目的である、カリンガ族に首狩り文化のあった時代から109歳になってもなお、現役でタトゥーを彫り続ける伝説の彫師Apo Whang-Od の施術を受けていきます。
前日は移動の疲れもあり早めに就寝。
朝5時位には鶏の鳴き声で目を覚まし、外で寛いでいると、村の方から温かいホットコーヒーを頂くことに。
ここまでの出来事を振り返ってみると、不便に感じることも多く、電波もほとんど届かないため携帯電話も満足に使えず、トイレは桶で水を汲んで流し、その水はシャワーとしても使うという、普段の生活ではなかなか味わうことのない不便さを体験しました。
ですが、言葉が十分に通じなくても温かく接してくれる人が多く、心のこもったおもてなしを受けるうちに、ブスカランに来てまだ2日目にもかかわらず、少しずつ居心地の良さを感じるようになっていました。

その後、師匠と彫けんさんも起床し、ガイドと共に散歩がてら景色のいい棚田を観に行く事に。

心地よい風と気温の中、辺り一面に広がる緑豊かな棚田を目にすると、その景色は圧巻でした。
6月のフィリピンは雨季で、悪天候の心配がありましたが、幸い天気に恵まれ雨が降る事もなくここまで迎えることができました。

棚田を後にし朝食を取りに宿舎へ戻ります。
写真で見えるのは学校と校庭の様な場所。
人里離れた部族の村ですが、意外な事に子供の数は多く、人口が減っていくような様子はあまり感じませんでした。

宿舎へ到着
朝食を取りこの後は待ちに待った施術に向かいます。

そしてワンオドの彫場へ
使用する針は一人ひとり、自分専用の針を購入します。
針は植物の針を使用しますが、天然の針で刺青を彫ること自体が特殊で、これで今から自分の体にタトゥーが入る事を考えると、楽しみではあるものの恐怖と緊張と不安が込み上げてきます。

そして遂にApo Whang-Odとご対面です。
ちなみにApoとは単なる名前の一部ではなく、年長者、長老、尊敬する人物に対する敬称として使われているそうです。

ワンオドの到着後、すぐに施術が始まる事に。
入れてもらうのはワンオドのシグネチャータトゥーのスリードット。
3つの点はワンオドと、伝統を継承する弟子の姪、大姪の3世代継承の繋がりを意味するもの。
入れる部位は手のひらに入れようと思いましたが、険しい顔で断られてしまいました。
代わりに左腕の手首に入れる事に。
伝統のバトックはどのくらい痛いのか実証していきます。

位置が決まると、水で溶いた炭をスリードットの形に手首に乗せていきます。
ここから炭は足さずに、のせた場所を叩いてタトゥーを入れていきます。

体感にして、位置決めか2〜3分も経たずに、施術が始まりました。
カンカンカンと針が一点目掛けて手首に刺っていきます。
「結構痛い!」
手首という事もありますが、何より、一点に何十回と針を打ち込んでいくのですが、これがとにかく痛い。
更には初日に見た若いアーティストのバトックは打ち込んだ針が一打一打跳ね返って来ていましたが、ワンオドは皮膚に刺さった針が皮膚から抜けずに、釘の様に打ち込んでいきます。
痛みの感想としては、一打一打が筋肉に響く様な鈍い痛みでした。

短くも、長い様にも感じる施術が終わりました。
次は彫けんさんの番です。

彫けんさんが選んだ部位は肩

施術を見ていると肩もかなり痛そうな印象を受けました。
流れる様に施術は終わり、いよいよ最後は師匠の番です。

師匠は指を選ばれました。
指はかなり痛い部位で、尚且つ深めに刺さないと色が残らない部位
ただ、色の残りに関してはワンオドのバトックなら心配はいらなそうです。

同じところに針を打ち込むというのも相まって師匠も痛そうにしていました。

あっという間に3人の施術も終えて最後に記念撮影
文化と歴史に触れる貴重な経験をする事ができ大変嬉しく思います。

施術後は、村のキャリアがまだ浅い10代のアーティストの女の子に施術をして頂くことに。
歴史のある部族によるトライバルタトゥーを手にできる機械は滅多にないと思い、衛生面に不安はありつつ施術を決めました。

選んだ柄は、長生きできる様に願いを込め、太陽のモチーフの「LONG LIFE」
キャリアがまだ浅いとのことでしたが、手際がかなり良くフリーハンドで10分ほどで転写が終わりました。

施術スタート。
わかってはいましたが、ワンオドと比べると打ち込みがかなりソフトで、痛みも少ないです。

転写からおおよそ1時間で完成。
丁寧に仕上げて頂きとても満足です。

彫り終えたあとはすぐに帰り支度を整え、名残惜しさを胸に、ブスカランを後にします。

帰路は行きで歩いてきた山道ではなく、荷物を運ぶ為のジップラインに乗って下山する事に。

シートベルトなどは勿論無く、乗り物の横は簡易的なロープが頼りなさげに繋がっているだけ
安全が保障されていないものに身を委ねるのは怖かったですが、最後に面白い経験ができました。


いかがだったでしょうか。
今回のブスカランへの旅では、実際にその土地を訪れ、カリンガ族の文化や人々の暮らしに触れることで、写真や映像だけでは分からないものをたくさん感じることができました。
長い道のりを越えて辿り着いたブスカランで出会った人々、村の風景、そして伝統的なタトゥー。
その一つひとつが強く印象に残り、改めて「タトゥー」という文化が、単なる絵や装飾ではなく、人々の歴史やアイデンティティ、そしてその土地の記憶そのものでもあることを実感しました。
今回の旅で得た経験を、これからの自分の彫師としての仕事にも繋げていきたいと思います。
長いようであっという間だったブスカランの旅。
たくさんの出会いと経験を胸に、名残惜しさを感じながら、この場所を後にしました。
またいつか、この場所を訪れたいと思います。

